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貴重資料コレクション

2022年4月1日更新

松平雪江と『常磐公園攬勝図誌』について

松平雪江(まつだいら せっこう)は、幕末期の天保5年(1834)、水戸下市東台に生まれました。本名は信行、後に俊雄と改めています。父は水戸藩士で、画家の松平権蔵(画号は「雪山」)。母は水戸藩士酒井家の出で、母の弟、酒井喜煕は日本画家横山大観の祖父にあたります。雪江と大観の父は従兄弟同士という関係でした。

雪江は、父から絵の手ほどきを受けましたが、さらに父の師である立原杏所に師事。中国(明、清)の画家たちの模写などもして腕を磨きました。

明治2年ごろから市内奈良屋町(現 宮町)に居を構え、明治9年に茨城県庁の職員となっています。自身の作品を展覧会などに出品する一方、明治18年に出版された『常磐公園攬勝図誌』(*(1))の編集・執筆に当たりました。『常磐公園攬勝図誌』は常磐公園(偕楽園)とその周辺の案内書で、この本の原画、編集等の制作を雪江一人が行っています。

さらに、くわしくお知りになりたい方は『水戸市史 中巻3』を参照してください。

『常磐公園攬勝図誌』は、乾・坤の2巻から成り、「乾」には偕楽園、好文亭について、「坤」には緑岡、千波湖など偕楽園周辺の絵図や解説が記載されており、それぞれ関わりのある漢詩や和歌が盛り込まれています。また、徳川斉昭が偕楽園で行っていた催しの、絵入りの紹介なども含まれています。当時の人々にとって、この書籍は名所の案内書であると同時に、偕楽園の歴史がわかる書物としても重宝な刊行物であったと思われます。

『常磐公園攬勝図誌』には、稿本が存在します。題箋は『庶物会要』とあり、中表紙に『茨城公園攬勝図誌』とあります。こちらも乾・坤の2冊から成ります。「乾」は、『常磐公園攬勝図誌』の「乾」と順序にいくらかの違いはありますが、ほぼ同じ内容が含まれています。また「坤」については、版本の方が扱っている量が多くなっています。どちらも図版部分の詩歌類が、稿本では大変少ない状態です。従って、この稿本に推敲を加えていって、明治18年の刊行になったと考えて良いと思われます。

さらに、版本の例言(*(2))の最後に、「好文亭所蔵の偕楽園吟詠と題する冊子の中から勝れたものを選び此書の続編とするが、まだできていないので後日出版する」とあることからもわかるように、続編の刊行が予定されていたようです。この『常磐公園攬勝図誌続編』の「上巻」についても稿本が存在します。こちらも題箋は『庶物会要』です。茨城県立歴史館にも所蔵されており、稿本が数回書かれたことがわかります。

(注釈)『庶物会要』の題箋が付いた『茨城公園攬勝図誌 乾・坤』と『常磐公園攬勝図誌続編』は、水戸市立博物館の所蔵資料です。なお水戸市立博物館所蔵の『庶物会要』は、全部で12冊。それ以外にも存在することが確認されています。

『常磐公園攬勝図誌』が刊行された翌年、雪江は県庁を退職し、以後は画業に専念する生涯を送りました。大正5年2月24日、奈良屋町の自宅で死去。享年81(数え83)

作品

明治15年

第1回内国絵画共進会出品作「山水二点、蓮、玄徳渉壇渓ノ図」・入選

明治17年

第2回内国絵画共進会出品作・褒状

明治23年

第3回内国勧業博覧会出品作「着色人物」「着色水禽」・入選

明治27年

明治天皇銀婚祝献上作品「追鳥狩絵図」(水戸市役所の依頼) 水戸市立博物館には「水戸城遠景図」をはじめとした作品が所蔵されています。

*(1)版本『常磐公園攬勝図誌』

水戸市役所蔵版

明治18年11月7日 印刷 12月2日 出版
編集人 松平俊雄(水戸市大字上市奈良屋町廿五番地)
印刷人 北沢清三郎(仝市大字上市大工町十七番地)

*(2)例言

  • 偕楽園は往ぬる天保己亥歳水戸景山源公の闢かれたる囿園にして四時の風光山水の明媚悉くその勝況を尽くす能はず 此書に載せる所は拾の一にして凡そ此地に来遊する衆客の多く耳目に触るるものを撰び出して其概略をしるす
  • 巻中其勝景を図し併せて当時騒人の詩歌を題するものは読者をしていながら其勝概を諳んじあるひは看るに倦まざらむ事を要す
  • 此書其見聞する所に随いて或いは図し或いは記す 又口碑に伝ふる処其正しきものをとり以て是を輯録す しかれども其聞所同じからざるものあり 今や之を訂すに遑あらず 恐らくは謬誤(あやまり)あらん 看官夫之を恕せよ
  • 此書第一巻は園中の概況をしるし第二巻は楼上の一望中にある仙湖浜水の勝境を掲げ併せて苑中の故事を録す
  • 好文亭所蔵の中に偕楽園吟詠と題する冊子あり 公之が序を綴り当時翰墨の士をしておのおの詩歌を記せしむ 爾来此園に来遊する騒人墨客かならず筆を請うて其余白に題するもの積んで数百首にいたる 今その勝れたるものを撰び此書の続編とす 而していまだ稿を脱せず 後日をまって梓行すべし

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